俺には2つ上の姉が居て、24歳の時に結婚し26歳で子供を産んだ。
しかし子供は重い知的障害を持っており、共働きを前提で結婚したが、働きながら知的障害のある子の面倒を見るのは無理だろうという事で、姉の夫からお願いされて、姉は専業主婦になった。
それから姉は年々やつれていった。
まだ20代なのに40代のおばさんに見えるようなやつれ具合だった。
艶のあった長い黒髪も、パサパサになって縮れ毛のように変質していて、いつも雑にゴムで結んでいた。
知的で美人な姉だったが、見る影も無く陰鬱な雰囲気になって、喋らなくなっていた。
母は姉を心配して、
「たまには孫を連れてうちに遊びにきなさい」
と電話していたが、姉は頑なに自分で問題を囲い込もうとしていたようだった。
そして姉は突如失踪した。
日曜の午前中、夫と息子が寝ている時間に外出して、そのまま帰ってこなくなった。
姉の夫から連絡があって母は大騒ぎし、母、父、俺で手分けして心当たりのある場所を探し、学生時代の友人の連絡先も当たってみたが見つからなかった。
姉の夫は捜索願を出したが、それでも見つからなかった。
しかも姉は勝手に離婚届を書いて役所に提出していた。
夫が書く欄も自分で書いていたので偽造という事になるが、受理されていたらしい。
しばらくの間、揉めに揉めていたが、俺も恋人と半同棲していたのであまり深入りはしていない。
あれから7年経ち、俺も恋人と結婚して2児の父になったが、今になって失踪していた姉から再婚して元気にやっているという連絡があった。
今は200キロ離れた場所で、職場の同僚と結婚し、1児の母をやっているのだという。
偽造の離婚届は受理されたままで、元夫は意義申し立てなどをしなかったそうで、現夫には
「DVから逃げて離婚した。経済力を理由に親権も取られた」
と説明しているらしい。
失踪・離婚騒動で発覚したのだが、元夫の家系は知的障害の多い家系で、元夫のいとこなど親戚数人が重度の知的障害だが、そのような事実は隠されて結婚しており、子供の障害が発覚した直後は全面的に姉の責任にされていたらしい。
姉は比較的若いうちに出産している方だし、うちの家系には先天的障害を持つ親戚は一人も居ない。
しかし姉に責任が押し付けられ、元夫がお洒落して外で自由に遊んでいるのが苦痛で仕方が無かったのだそうだ。
こういう問題も、突然失踪したりせずに、母に相談するなりして、両家の揃った場をもうけて話し合っていれば、ここまで事態が混乱する事もなかったのではないかと思う。
当時の姉は精神を病んでいたのではないか。
責任感が強すぎて、何でも自分で解決しようと思うと、突然爆発して周囲に迷惑をかける事になる。
結婚相手に選ぶなら、無責任な人間は良くないが、生真面目過ぎてなんでも自分で解決しようとする人間も良くないかもしれない。
好きな相手にそういう部分があったら、できるだけ話しやすくする事が大切だと思う。
俺は学生時代から出来の良かった姉の存在に息苦しさを感じていた部分があったので、嫁は正反対の緩い性格で、何でも相談してくる女を選んだ。
姉と元夫の子は、元夫の両親が育てているらしい。
しかし姉は、現夫との子が可愛いという話をするばかりで、その子の現在については何も聞いてこなかった。