前編:変なテンションの女-1


裕子とは、二人で遊びに行くことが多かった。
彼女は相変わらず言動が怪しい。周囲から見れば、「変な奴」「痛い奴」だと思われているに違いない。
だけど、裕子のその態度は、演技なんだろうと僕は思っていた。
本当に頭のおかしい人間が、ふっと一人になった時に、あれだけ鋭い目線をするものだろうか?

裕子は、周りに友人がいれば、面白いことを言ってはウケを狙う。
その間は、ずっと馬鹿みたいに笑顔を振りまいたりしている。
だけど、その雑談が途切れた時―――授業中や、みんなが自習に取り組む放課後の教室では、裕子の目つきは少し怖

いくらいに鋭いのだ。

裕子は、みんなに隠している、冷めた部分がある。
冷めた部分があるから、周囲の人間のウケを取ろうと演技している。
僕は、「素」の裕子を確かめたい気持ちもあって、接近することにはなんの違和感も持たなかった。

前にも述べたとおり、彼女は美人の部類に入る。
女の子らしく、身だしなみにも気をつけているようで、近づけばいい香りがする。それに僕がしょっちゅうクラクラ

していたことは認める。

高3の夏休みになって、僕はやたら性欲が高まって自慰行為ばかりに勤しんでいた。
本来なら、受験勉強をしなければいけなかった身分だが。
どうしても、自慰の時に思い浮かべるのは裕子になってしまう。

そんな毎日で理性が崩れたのか、我慢ができなくなったのか。
僕は裕子を家に誘って、できることなら最後までヤリ遂げようという決心をした。

「映画のビデオをレンタルしたから、見に来ないか?」
と、メールして裕子を呼び出す。
『しょーがねー、行ってやるよん♪』との返信。
偉そうな文面だが、そういう女として今まで付き合ってきたのだから、違和感はない。

(ああ、アレだ。
今にして思えば、「猟奇的な彼女」のヒロインに通じるものがあったような気がする。)

コンドームをポケットに忍ばせて、裕子を待つ。
家族はみんな出かけている。準備は完璧のはずだから、あとは手順と裕子の反応しだいだ。

「ただいま」
玄関を開けると、僕の家なのにそんなセリフを言う裕子がいた。
白いワンピースである。肩の部分は紐だった。なかなかにセクシーでよい。

あまりベタな内容のビデオでは、狙いすぎだと思われてしまう。ラブロマンス過ぎてはいけない。
悩んだ結果、レンタルしたビデオは
「アンドリューNDR114」
である。

 Amazon.comの作品紹介の文章を引用すると
☆舞台は近未来。サンフランシスコ郊外に住むマーティン一家に家事専用ロボットのNDR14(ロビン・ウィリアム

ズ)が届けられ、アンドリューと名付けられる。しかし、人間的感情をもち備えているアンドリューは、やがて人間

でありたいと強く願うようになり、自分と同じようなロボットを探す旅に出る…。
クリス・コロンバスがアイザック・アシモフの小説『バイセンテニアル・マン』を原作に製作・監督したヒュー

マンSF映画。S・スピルバーグ監督の『A.I.』に先駆けるかのように、200年の時の流れの中をロボットが苦悩しなが

らさまよい続ける。そんなアンドリューをR・ウィリアムスがいつもながらの芸達者な演技で体現。ジェームズ・ホ

ーナーの感動的で麗しい音楽もすばらしい。(的田也寸志)

―――とのこと。
 物語の最後のほうでは、アンドリューと人間の女性との永遠の愛がテーマになってくるという、それはそれは素晴

らしい話だそうだ。

序盤はコミカルだったので、裕子も小さく笑いながら、黙々と鑑賞。
裕子がやってくる前に一回見ておいた僕は、裕子をチラチラみながら雰囲気を伺う。
後半になるにしたがって、内容は「愛」が浮き出てくる。

映画のネタバレになってしまうが、ラストはアンドリューが一人の「人間」として認められ、アンドリューは死ぬ間

際になって、長年一緒に過ごしてきた女性と結婚することができた、というものである。
感動的なラストであった。裕子にどうこうしようという下心を忘れてしまうくらい。2度目を見ても、感動してしま

った。

「いい話だったなー」
エンドロールが流れている時、僕はとりあえずそんなセリフを裕子に言う。
「ねえ」
微妙に涙目になった裕子が返事してきた。
やはり、感動したのだろう。変な女だったら、ここで泣くことなんてあるのだろうか。

ここからは、僕と裕子の会話が中心になる。

裕子「愛ってさ、なんなんだろうね」
突然の質問で、僕はうまく答えられなかった。
裕子「恋と、どうちがうの?」
「なんで、そんな事を突然。」
裕子「ずっと昔から考えてた。突然じゃない。」
………そりゃあ、お前にとってはそうだが。

「やっぱ、ある人と一緒にいたいって思うことが、愛とか恋なんだろ」
裕子「もうちょっと、うまい言葉で定義して欲しい」
「そんな事いっても、理屈で説明できる感情じゃないだろ〜」
裕子「だって、ムカつくじゃない。誰かを好きなのに、その理由がわからないなんて。」
………こういうマジな話をするのは、初めてであった。

「国語の得意なお前の考えでは?」
裕子「………愛は相手を大切にしたい気持ち。恋は相手を自分のものにしたい気持ち。」
「まあ、その定義も微妙だけど。」
裕子「………違う違う!」
「ん?」
裕子「私が言いたいのは、今のことじゃなくて!」
「うん」
裕子「なんで、愛とか恋って言う『好き』の気持ちが、この世に存在しているのかってこと!」

「ああ?よくわからん」
裕子「よくよく考えてみるとさ、人間には恋愛とか必要ないんじゃないの?」
「えー?」
裕子「生きていくことだけだったら、そんな感情は必要ない。」
「………そりゃあ、メシ食って寝るだけなら、恋愛感情は必要ないな。」
裕子「でも、周りは『愛こそが全て』『allneedislove』みたいな主張ばっかしでしょ。」
「ドラマとか、そうだな。」

裕子「だから、恋愛の状態に居ないと、虚しさでいっぱいになる。」
「周りが恋愛、恋愛と騒ぐから?」
裕子「少なくとも、みんなが黙っていれば、恋人がいない人だって無闇に悲しむことは無い。」

「お前はそういうけどさ、やっぱし本能的なものなんじゃないの?」
裕子「だってさ・・・・理屈、つけたくなるじゃん。」
「お前は、誰かを好きになったことが無いのか?」
裕子「………あるよ」

「だったら『allneedislove』ってみんなが騒ぐのも必然じゃないか。」
裕子「だから、何で人を好きになるの?本能とか、そういう説明じゃなくてさ。」
「………ちょっと待て。考えてみる。」

―――話がいったりきたりしてしまいがちだが、僕と裕子は沈黙状態に入った。
何で人を好きになるのか?
 その女が可愛いから、いつも見ていたいから。
 その女の匂いがいいから、いつもそばにいたいから。
 その女が面白いから、いつも話していたいから。
………どうにも、中途半端だ。
ただ、今思った言葉を考えると―――


「『人を好きになる』ということは『その人が自分に必要だと気付く』ことじゃないのか。」
裕子「なんで必要になるの?」
「一人じゃ生きていけないからだろ、やっぱし。メシを食うにも一人じゃ寂しい。」
裕子「………みんな、寂しいから、本能的に誰かを探しているの?」
「そうかも………親から離れるにしたがって、他の誰かを求めるのかも。」

裕子「ねえ」
「ん?」
裕子「寂しい?」
「………微妙。」
裕子「なんで?さっきまで散々理屈こねといて。」
「お前が近くにいるから、あんま寂しくない。だから微妙。」

・自分でも(なんかクサい展開になってきたな)と思ったが、もう後戻りはできない。
裕子「私は、まだぜんぜん寂しい。」
「日本語ヘンだぞ」
裕子「どうせ、ヘンな女だと思ってるくせに。」

「いや、お前は人より寂しがり屋だから、ヘンな女のフリして自分をごまかしてるピエロだ」

自分でも、なかなかヒドイ事を言ってしまった、と瞬間的に反省。
しかし、このセリフで裕子が泣き出してしまう。
裕子「アホ、お前。」(えぐえぐ)
「す、すまん」(オロオロ)
裕子「女を泣かすな。」(涙をゴシゴシぬぐいながら)
「しょうがない。」

なにがしょうがないのか自分でもわからなかったが、僕はもう我慢できずに裕子を抱きしめてしまった。
ついでに、「よしよし」をするように頭をナデナデ。
裕子はますます僕の胸元で泣いてしまったが、鼻をすする声しか出さない。これはこれで、趣深い。

結局、「付き合おう」とも「好き」とも言わずに、裕子にキスまでしてしまった。
裕子を抱きしめている状態で、僕のアソコは完全に勃起して、裕子の腹部をグリグリ押し付けていた。
裕子「痛いんだけどっ!」
「ゴメン」
裕子「ムードとか、一発でぶっ潰してくれるね、君のご子息は。」
そう言いながら、裕子はズボンの上から僕のモノをニギニギしてくる。
(うわ!こりゃヤバイ)と思ってしまうほど、僕には刺激が強かった。

裕子「しちゃう?」
「お願いします。」
・僕のほうが、頭がイッパイイッパイになってしまって、なぜか下出な態度に。
裕子「どーせゴムとか用意してたんでしょ。」
「うん」
裕子「………殊勝なことね。」

裕子の方がノリノリで、僕はすっかり緊張していた。
裕子に押し倒されて仰向けにされ、あれあれと言う間に、裕子に衣服を剥ぎ取られていく。
そして、全裸仰向けの僕の前に、まだ衣服を脱いでいない裕子という情けない状況ができてしまった。
裕子「隠すなよ〜」(ニヤニヤ)
「いや、だって恥ずかしいし。」
裕子「そ ん な 感 情 は 知 ら ん !」

裕子は、僕の股間の一物をじっと見ていた。そして手にとって、それとなく撫で回してくる。
「うー」(気を抜くと射精してしまう・・・・・)
裕子「お世辞にも、いい臭いだとは言えないね。」
「ヒドイぞ、それは。しっかり洗ってるのに。」
裕子「別にいいよ。私のだって、どんなに洗ってもすぐに汚れちゃう。」
「そういうものか」
裕子「………なんかさ、二人の汚いところ同士をグリグリ密着させてかき回すのって、燃えない?」
「エロい、表現が。」

裕子「ふん。イビツな形にギンギンに硬くして。イヤラしいわね〜♪」
「お前、絶対エロ小説の読みすぎだ。」
裕子「そう。私は家ではもっぱらエロ小説です。」
「お前の国語の成績は、それで鍛えられたのか………」

裕子「―――てやああああ!」
「!!」

突然、裕子がペニスを思いっきり掴んで激しくしごきだしてきたので、僕はたまらず自分の腹部に射精してしまった


裕子「あははははは!ホントに飛んだ!!」
「ヒデェ・・・・」
裕子「ためしに、舐めてみよ。」
 裕子は、ペニスから垂れている精液を舌先ですくい、さらにペニス全体を口に含んで、精液を舐め取ってくれた。
裕子「………ゲロ不味い。」
「無理するなよ」
裕子「でも、飲む。」(ゴクン)
「………」(かなり嬉しい気分)

裕子が萌える行動をしてくれたおかげで、ペニスは再び立ち上がった。素晴らしい。
裕子「うわー、ムクムクしてる………」
「気持ち悪いとか言うなよ!」
裕子「グロいってさ、認識の問題だから。」
「ん?」
裕子「つまりね。『これは、この形で当然のものだ』って思っているものは、グロイとか思わないわけ。でも、もし

その認識が無かったら、人間の体はどこも全部グロいよ?」

「萎える話だなぁ」
裕子「だってさぁ。私の手には、五本の指がある。しかも、それぞれ関節が2箇所もあって、グネグネうごくんだよ

?指って。グロくない?」
「そう考えたことは無かった。」
裕子「目の周りに、まつげとか生えてるし。ほら。」
 裕子は、俺と鼻がぶつかるぐらいに顔を近づけてくる。
「近すぎてキスもできん!」
裕子「こうゆう時は、こうするの。」
 裕子は、自分のまつ毛と俺のまつげとが絡むように、瞬きをパチパチしてみせた。
 今までに味わったことの無いくすぐったさ&恥ずかしさで、胸が切なくなってしまった。

「………」(ドキドキ)
裕子「アホ。黙るな。」
「わりぃ」
裕子「ね………お願い。」
 そう言って、今度は裕子があお向けに。
裕子「マジで怖いんだからね。ゆっくりやってよ。」
「わかってる」(コンドーム装着)

裕子のアソコはかなり濡れていたが、指でとりあえずいじってみる。
奥からドンドン汁が湧き出してくる。
そのくせ、裕子は近くにおいてあったクッションを抱きかかえて、顔をうずめて我慢しているのだから、可愛いもの

だ。

ついに挿入の時。さらば童貞。
裕子に覆いかぶさるようにして、体を密着させる。
裕子「………ね。」
「ん?」(処女最後の言葉か………?)
裕子「私を壊してよ。お願いね。」

―――それがどういう意味なのか。
ピエロ。裕子のことだ。もしかしたら、裕子自身そんな自分に飽き飽きしていたのだろうか。
自分にウソをついて、「フリ」をしている人間は多いのだろう。
わがままや、寂しがり屋の自分を隠して、明るいキャラを演じている人間たち。
だから、ますます寂しくなる。
本当の自分を知っている人間は、ピエロを続けるほどいなくなっていく。
過去に、痛い思い出でもあったのだろう。調子に乗りすぎて失敗して、怒られたとか。
だから、裕子はピエロになったのかもしれない。
そして、それを今、僕によって壊そうとしている。
………全て、僕自身の体験から来る勝手な予想だが。

「わかった」
裕子は、せめて僕の前ででは、裸になっていてもらおう。
ヘンな決心をしたせいで、少々優しさにかけた挿入&ピストンをやってしまった。


裕子には、さんざん背中をひっかかれた。
血がにじんでいるのかもしれない。爪はしっかり切って欲しいものだ。
「………もう終ったんだけど、抜いていい?」
裕子「やだ」
 僕は、射精した後も裕子の膣内にしばらく入れたまま、彼女に抱きしめられていた。
「一回きりじゃないから。またすぐに、こうなるから。」
裕子「………ん。」

裕子が放してくれたので、僕も血だらけのペニスを引き抜く。
しばらく、裕子は僕と手をからめていた。
裕子「たぶん、私こわれた」
「そりゃあ良かった」
裕子「だから、あんたがしっかり責任もって、助けてよ。」
「オンブとかダッコは勘弁しろよ。」
裕子「そんなみっともないことヤダよ。………ただ、私を見ててくれりゃいいから。」

おそらく、愛とかの意味なんて、人によってそれぞれなのだろう。
だから、万人に共通する定義を、今まで誰もできなかったのだ。
裕子にとって、愛とは理解されること。
「愛=理解」とは、漫画「ジョジョ」の第6部の言葉だが、裕子の場合はしっくりくる定義だった。

僕にとって愛とはよくわからないが、行き着く場所は裕子だろう。