92:◆MEx/4CS4Gs:2006/02/05(日)02:29:28
少しだけですが、続きです。
すいません、PCの調子が悪く、途中から別のPCよりファイルをメール添付で送ってるのですが、
WINとMACですので。サイズの違いとかがあるので補正してたら時間がかかりました。
私も疲れましたので、続きはまたの機会にまとめて貼ります。ご迷惑をおかけしました。
93:◆MEx/4CS4Gs:2006/02/05(日)02:31:01
「カーディガンが欲しいんだけど、一緒に探してくれる?」
エリカがあまりにも恥ずかしそうな顔をするし、可哀想になったので僕は話題を変えた。
【JAVA】を出て、僕とエリカはフィアスコやアノニーム、ナイロン等を回った。
「…そりゃ、スメドレーはかっこいいけど、高いからなぁ」なかなか見つからない。
「シンジ君、モトコーだったら安いかもよ」…エリカはモトコーを誤解している、そう思った。
エリカは片っ端から店を覗こうと提案するが、そんな事をしていると二人で過ごす時間がなくなってしまうと思った。
「westendで見つからなかったら、諦めるよ。そこまで欲しいって訳じゃないしね。」
カーディガンよりも二人でデートしている時間を大切にしたかった。
「夏になったら自転車を買うの。三宮においていたら便利でしょ?」エリカは唐突に言い出した。
「だから夏までに自転車に乗れるようにしておかなきゃね」エリカは僕の肩をポンと叩く。彼女は自転車に
乗れなかった。坂の多い街に住んでいると自転車に乗る機会は少ないし、ボストンでも乗る機会がなかったらしい。

僕はこみ上げてくる笑いを堪えて、もう少し暖かくなったら自転車に乗る練習をしようと言った。
結局【westend】でも僕の欲しいカーディガンは見つからなかった。
僕達は諦めて旧居留地をブラついた。ジーニアスカフェの方に歩いているとエリカの目が
【cluudiepierlot】のショーウィンドウに釘付けになった。「シンジ君、あのスカート可愛いね。」
値札を見る。僕にもプレゼントできそうな値段だったしプレゼントしたかったが、きっとエリカはそれを許さない
だろうと思った。
「試着してみてもいい?」
そのまま店に入り、試着をお願いする。エリカがフィッティングしている間、僕は少し居心地が悪かった。
店員さんが気遣って声をかけてくれる。
「可愛らしい彼女さんですね」僕は多分…顔を赤くしていた。
「ありがとうございます」それが適切な言葉かどうかはわからなかったが、なんとなく嬉しかった。
ドアを開けてエリカが出てくる。…僕は絶対にプレゼントする、一瞬でそう決めた。

「シンジ君、どう?」エリカは鏡を見ながら鏡越しに僕に訪ねる。店員さんが位置を直している。
「うん、すごく似合う」答えながらもエリカが気づかないうちに支払いを済ませる方法がないか思案した。
「よかったら別の色も履いてみたら?比べるといいかも」店員さんがベージュと白の同型のスカートを用意
してくれる。
「買っちゃおうかな?後のケーキは奢ってくれる?」小声でエリカはイタズラっぽく尋ねた。
「もちろん、でも悪いから一応両方とも試着しようよ」そう言いながら店員さんが持ってきたスカートを
持ってフィッティングルームに行かせた。ドアが閉まったと同時に
「これ、大至急プレゼントでお願いします。」店員さんにお願いした。店員さんは意味がわかったらしく、
すぐに会計を済ませてくれ-もう一人の店員さんに包装するように頼み-
「少し時間がかかるから、私がうまく引き延ばしますね」ナイスな店員さんだと思った。
少しして試着を終えたエリカが着替えて出て来た。
「やっぱり黒がいいかな」エリカの言葉に僕は何故かドキドキしていた。
店員さんがカタログを持ってきてエリカに着こなし方なんかを教えて引き延ばす。
暫くしてからもう一人の店員さんが合図を送る。

「そ、そろそろ行こうか?」僕はシドロモドロになった。
「彼氏さんがプレゼントしてくれましたよ」もう一人の店員さんが小さな箱にラッピングしてくれていた。
「えっ?えっ?どうして?」エリカも動揺していた。何故か僕も動揺している。
「いいなぁ、私も優しい彼氏が欲しいな」店員さんが助け舟を出してくれている。
「ありがとうございます」何故か僕もエリカも頭を下げてエリカとお店を出た。
「ビックリ!」エリカは紙袋を抱えながらも驚いている。
「うん、ごめん。勝手なことして」僕はまた謝ってしまった。
………。
「怒った?」僕は恐る恐る聞いた。
「ううん、そうじゃないの。本当にびっくりしたの」エリカはニヤッと微笑む。
「でも、やっぱり貰えないよ。お金返すね」
「いや、そうじゃない。エリカが履いているのを見て、僕が気にいったんだから」

なんとか…納得してほしかった。
「嬉しいよ。ありがとうね、でもお返ししなきゃね」
僕はエストロイヤルのシュークリームをオーダーした。
「それじゃシュークリーム100個は買わなきゃね、シンジ君太るよ〜」
もちろん、シュークリームは100個も買わなかった。
「晩ご飯は何食べる?」エリカが聞いてきたので、リクエストしてみた。
「天一軒のトリモモが食べたいな。でも汚い店だからなぁ」
「よし、そこに行ってみよう!私もトリモモ食べるよ」
僕らは日が落ちた三宮の街を歩いた。
天一軒に付く。席はまだ空いていた。トリモモの柔らかいのを二つと焼飯、ワンタン麺を注文する。
暫くしてトリモモが出てくる。

「かぶりつくといいよ」僕はエリカにティッシュを渡しながら食べ方をレクチャーする。
「!」「美味しい!」エリカは喜んでかぶりついている。
「下品な食べ方だけど、これが一番だよ」僕もかぶりつく。
半分程トリをたいらげた頃にワンタン麺が出てくる。
「取り分けてあげるよ」僕はエリカの分を取り分けた。
「あっさりしていて美味しいね」僕もエリカも満足だった。店の外には行列が出来はじめている。
「トリモモをお土産にする?」
「今日はダメ。袋がない。前にも頼んだけど、透明のビニールに入れるだけだから持って帰るのが恥ずかしいよ」
僕はエリカの提案を却下した。焼飯が出てきて…僕たちはすぐに全てを平らげた。
…エリカが奢ってくれた。

「美味しかったし、今日は大収穫だったね。」エリカはお腹をさすりながら、紙袋をポンっと叩いた。
エリカの幸せそうな顔を見ていて、僕も幸せな気分になった。
電車に乗っていると、エリカが凭れかかってくる。
「…シンジ君に甘えてばっかり、シンジ君の優しさに甘えてるよね」エリカはポツンと呟いた。
「そんな事ないよ」-僕の優しさは薄っぺらなものでしかなく、本当の優しさがなんなのかさえわからなかった-
僕の複雑な表情を感じたのか、家に帰るまでエリカは僕の手をギュッと握ってくれた。

2月13日
夜、11時30過ぎに玄関のチャイムが鳴った。
玄関を開けると…そこには小刻みに震えながらハルホが立っていた。
「後、30分。待とうかと思ったけど、寒いしね」
いつ…覚えたのだろう?そこに立っていたハルホはつくり笑顔で僕に話かけてきた。
「寒かったろ?……。とりあえず上がれば?」本当は上げるべきではなかった。
僕のこの言葉が、エリカもハルホも傷付ける…そう思った。
わかり切っているのに、僕の心の中は複雑だった。


「すぐ帰るね、ほらシンジにバレンタインチョコをね。ほんの少しの時間ならお人形さんも怒んないよね?」
入院の時のお礼もしてないし、…ハルホは言葉を探している。僕はだらしなく愛想笑いをしていた。
「そんなの…気にしなくていいのに」僕は努めて明るく振る舞った。

「あの人、シンジを傷つけたでしょ?あの後…謝りたいって言ってたよ」
ハルホの言葉は本当かどうかわからなかったが、傷付けたのは…確かに僕の方だった筈。
「悪いのは俺だよ」…僕は言えなかった。「コーヒー、飲むだろ?」代わりの言葉。
「シンちゃん、私がするよ」ハルホが立ち上がろうとするのを僕は止めて、立ち上がった。
ハルホの顔を見ていると辛くなる。そんな気がした。
音楽が止まる。ステレオの通電している、かすかな音だけが響く…
「ちょっと濃いかも」僕は自分のマグカップをハルホに差し出した。
「あたたか〜い。少し苦いけど。でも暖かいよ、シンちゃん」ハルホは両手で包み込むようにしてマグカップを
持っている。

僕の鼓動は早鳴りしていた。
この場を逃げ出したい!自分の部屋なのに居心地は悪かった。時計に目をやる…。僕の視線の先に時計があるのを
ハルホは気付いた、みたいだった。
「そろそろ帰った方がいい?それともエッチしちゃう?」戯けてみせるハルホ。
僕は黙ってエリカのマグカップに入っているコーヒーを飲んだ。
「そんなんじゃないよ。」僕もそう答えると、もう一口…コーヒーを飲んだ。
気まずい時間が流れる。
「そろそろ帰らなきゃね。でも12時まで待って」ハルホはそう言って、僕の部屋を見回した。
「ねぇ、彼女の…お人形さんの写真はないの?」…僕は首を横に振った。
「そういや、撮ってないな」僕は小さい声で呟いた。
「そうなんだ。でも、悔しいけど可愛いよ、あのお人形さん」ハルホは名前を聞いてこない。多分、それが…
ハルホの意地だった、と…僕はそう思った。

ハルホが傷ついている。僕にもわかったけど、その場にふさわしい言葉がみつからなかった。
「あのお人形さんのこと…好き?」俯きかげんのハルホの目から…涙がこぼれた。
僕はそれには答えず、とりあえずCDのスイッチを入れた。
【DATEOFBIRTH】の「思い出の瞳」が流れだす。
明るいメロディに気怠いヴォーカルが乗る。
♪あの子は何を探してるの?失くしたことさえない鍵さ♪
曲がそこまで流れた時、ハルホの涙は大粒になっていた。僕の目にも涙が溜まっていた。
-REMEMBEREYES-
「ごめん、…俺。ハルホを傷つけてるよな…」僕は言葉を続けようとしたが、ハルホがそれを遮った。

「俺の事を忘れてくれ!そう言いたいんでしょ?」
ハルホはそう言うと僕に無理矢理の笑顔を見せる。
「無理。そんなの絶対に無理。シンジの事を諦める事出来ないよ」笑顔が涙で崩れていく。
「なんで!私は二番でいいの!嫌だけど、それでいいのに!」僕には何が何だかわからなかった。
ハルホはそう言うと僕にチョコを押し付けるように渡した。渡したあと…ハルホは泣き崩れてしまった。
僕が…ハルホを抱き起こそうとすると
「気持ちがないなら…触らないで!」彼女は僕にそう言った。
「そんな訳にいかないだろ?」僕はハルホを抱き起こした。
ハルホは泣いていた。僕の胸の中で泣いていた。僕は彼女を抱きしめた。間違いであるのが分かっているのに…
強く抱きしめた。
「苦しいよ。シンジが好きで苦しいよ。…ダメなのに苦しいよ」…そう言うとハルホは僕の背中に手を回した。